臨床看護研究の進め方:文献レビューのポイント

研究を行う上で、過去の研究を概観し理解することは非常に大切です。研究は、これまでになかった知見を科学的に公表する活動です。したがって、「着目しているテーマ(現象)に起きている社会課題は何なのか」「着目しているテーマに対し、これまで(過去)どのような研究が行われ、何がどこまでわかっているのか」を調べることが文献レビューの大きな目的です。そして最終的なゴールは、研究疑問(リサーチクエスチョン)を明確にすることです。

特に、文献レビューを行う上で意識してほしいことは、「根拠を探す」ということです。おそらく研究の着想時点では、自分たちの臨床経験がもとになっていることが多いと思います。着想自体は経験をもとにすることに問題はないのですが、研究計画の立案や実施、まとめ(論文化)など、研究プロセスにおいては、自分たち(研究者)の経験に依拠することはできません。いかに自分たちのテーマや研究結果、あるいは研究全体に説得力を持たせるか、そのための根拠を探すプロセスが「文献レビュー」です。

文献レビューのポイント

テーマに関する社会課題の同定

テーマに対する先行研究の概観:既知と未知の線引き

ポイント1:テーマに関する社会課題の同定

まず、自分たちが着目しているテーマについて、社会(臨床)ではどのような課題があるでしょうか?看護学研究は、その課題の解決に貢献する知見を提供する活動です。課題は、現在起きていることかもしれませんし、将来起こりうることかもしれません。自分たちが研究を通じて解決しようと考えている課題を思考し、その課題の根拠を探すことが、「テーマに関する社会課題の同定」で行うべき文献レビューのポイントです。

例えば、「自宅療養している認知症患者の介護者の介護ストレスを軽減したい」というテーマを設定したとします。このまま研究を進めても良いように思われますが、「介護ストレスを軽減すること」は、社会にとって本当に必要なことなのでしょうか?本当に介護者はストレスを抱えているのでしょうか?医療者・看護者であれば当然、このような状況を経験していたり、安易に想像できるので、このテーマは臨床的に妥当であると判断できますが、研究ではその根拠を個人(研究者)の考えや経験に基づくことはできません。このテーマ設定の妥当性を、文献という根拠をもとに主張しなければならないのです。

このテーマにおける社会課題は、「自宅療養している認知症患者の介護者の介護ストレスが増えている」ということや、「自宅療養している認知症患者を介護する方の中で、介護ストレスを抱えている人が増えている」ということなどが社会課題として挙げられるでしょう(テーマに対する社会課題は一対一対応ではなく、研究者がどのような角度・視点でそのテーマを捉えるかによって多少変化します)。

端的に言うと、「自宅療養している認知症患者の介護者の介護ストレスを軽減したい」というテーマに対し、「なぜ介護ストレスを軽減することが必要なのですか?」「それはあなたの身の回りだけで起きていることで、社会でほんとうに課題になっているのですか?」といった問いを投げかけられたことを想定し、自分たちの経験以外に説得する根拠を探しましょう、ということです。

説得のための根拠として、信頼できる情報である必要があります。個人のブログやSNSは信頼性が低いことはわかるかと思いますが、書籍や学術論文以外の文書にも注意が必要です。一般的に、国や職能団体等が公開している情報以外は使用しない方が安全ですし、書籍もその信頼性は様々ですので、原則として学術誌に掲載されている論文を使用するのが適切です。

ポイント2:テーマに対する先行研究の概観「既知と未知の線引き」

次に必要な文献レビューのポイントは、テーマに対する先行研究の概観です。研究は、これまでわかっていないことを調べ、新しい知見を提供する活動でもあります。これまで調べつくされてきたことを、研究参加者の負担を強いて改めて調べることの必要性はほとんどありません。したがって、研究を実施する前に、テーマに対して「何がどこまでわかっているのか」「何がわかっていないのか」を整理し、自分たちの研究がその「わかっていないこと」に対して知見を提供する研究なんだ、ということを主張しなければなりません。前ポイントで社会課題が明確になったとしても、すでにたくさんの研究が行われているのであれば、それは自分たちがその研究結果を知らなかっただけで、テーマに対して研究をする必要性を主張することはできなくなってしまいます。

「何がどこまでわかっているのか」を調べるためには、以下のような点に着目して文献を調べてみると良いでしょう。

  • 全く同じテーマの研究はされているか?
  • 同じ疾患で異なる属性の対象をテーマにした研究はされているか?
  • 異なる疾患で同じ属性の対象をテーマにした研究はされているか?
  • 類似疾患、類似対象をテーマにした研究はされているか?
  • 他の状況(例えば在宅、居宅、施設、国外など)での研究はされているか?
  • 類似テーマの研究ではどのような研究手法が用いられているか?

これらはあくまで一般的な着眼点であり、すべてのテーマに当てはまるわけではありません。そして、このような着眼点で過去の研究を調べていく過程で、自分たちの研究を位置付けていくことも重要です。それはつまり、リサーチクエスチョンを洗練させていくということです。

先の例でいうと、「自宅療養している認知症患者の介護者の介護ストレスに関する研究」がすでにたくさんされているのであれば、自分たちが改めて研究する意義は小さいかもしれません。あるいは、質的研究が多く、量的研究がほとんどされていないのであれば、量的にその関連を調べてみるという道筋もあるかもしれません。また、配偶者に関する研究は多いが、子どもの配偶者に関する研究は少ないかもしれません。高齢の認知症患者の介護については研究がたくさんされているが、若年性認知症患者の介護についての知見は少ないかもしれません。このように、先行研究でわかっていることを詳細に整理しつつ、わかっていないこと、新しい知見を提示できそうな領域を明確にし、リサーチクエスチョンを洗練させていくことが、文献レビューにおいて非常に重要なポイントです。

補足:文献(情報源)の質に注意する

ポイント1の最後に少し触れましたが、根拠となる文献は信頼性の高いものを選択すべきです。研究論文における信頼性の基準として、大きくはまず査読の有無で分けられます。

査読とは、投稿された論文に対し、専門家数名がその内容や研究手法、結果の妥当性・信頼性などをチェックし、掲載(公開)の可否について意見を述べる研究論文の品質保証プロセスです。査読の厳しさや質は学術誌によって様々ですが、査読有りの論文はその品質保証プロセスに合格した論文だけが公開されています。したがって、査読のない論文よりも、その内容の信頼性は高いといえます。一般的に、国内では各学会が運営している雑誌や、ふだん検索して目にする国外の英文学術誌は査読プロセスが用意されているため、信頼性が高いでしょう。一方、大学が運営している「紀要」などは、査読が無い、あるいは学術誌に比べ査読が厳しくないため、信頼性は劣ります。本屋さんで気軽に購入できる、いわゆる”商業誌”のほとんどは査読プロセスがなく、きちんとした研究手法に則っていないものもあるため、引用は避けるべきです。

文献の質そのものに直結するものではありませんが、学術誌に掲載されている論文にも種類があります。「原著論文」「原著」と記された論文は、ふつう皆さんが想像するいわゆる研究論文のことで、科学的手法に基づいて実施され、学術的・臨床的に新規性の高い内容が書かれた論文種別です。「総説」「レビュー」などと記された論文は、複数の学術論文を集約し、エビデンスを概観したりテーマの動向について書かれた論文種別です。「資料」「実践報告」などは、学術的・臨床的に意義のある情報が書かれた論文種別であり、「原著論文」とは異なった目的のために書かれた論文種別です。理想的には、引用する文献は「原著論文」「原著」が望ましいといえます。

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