文献クリティーク入門

研究論文を読み、過去の研究から知見を得ようとするとき、ただ漫然と小説を読むかのように読むこともありますが、過去の研究(論文)の強みと弱み、セールスポイントと限界を整理しながら読むことは、特に研究初学者にとってとても有益です。文献を批判的に吟味する「文献クリティーク」をする上でのポイントについて解説します。

「"批判的"吟味」の意味を間違えない

「critique」とは、「批判、評論」という意味があります。日本語の「批判」は、物事に対して否定的な見解を表明するような、ネガティブなイメージがあります。しかし、研究論文を精読する際のクリティーク(critique)は、論文や研究を単に批判することではありません。ゼミや抄読会などでよく見受けられることとして、論文や研究の弱点や限界点ばかりを指摘して満足するような、間違った文献クリティークを行ってしまっていることがあります。論文や研究の弱点や限界点を理解することは非常に大切な文献精読のプロセスですが、そればかりに終始してしまっては得られることも少なくなってしまいます(このような誤りは、研究とは大なり小なり限界がつきものだ、という前提を理解していないことに起因すると考えられます)。

文献クリティークのポイント

では、単なる”批判”に留めず、より有益な論文抄読とするためには、どのような点に注意すべきでしょうか。まず、過去の研究論文を読むことの意義を自覚しましょう。その意義は、「過去の研究に学び、将来の研究に活かすこと」です。すなわち、過去行われた研究の良い所はどこなのかを理解し、さらにより良い実践のために改善すべき点や追加すべき点はどのような点なのかを整理して論文を読むということが大切です。

基本的に文献クリティークのポイントは、他の記事で紹介しているような、自分たちの研究計画を立てる際に注意すべきポイントとほぼ同じです。大まかなポイントは、テーマの新規性や臨床的意義、研究手法の妥当性、結果の適切性、考察の論理性などです。論文の各セクションの細かいチェックポイントの一例は、こちらのサイトで公開されています。

初学者の方々は、まずは自分の感覚的な評価で構わないので、このチェックポイントを意識して論文を読んでみると良いでしょう。大切なことは、ただ○、△、×を記入していくのではなく、「なぜ自分がそのような評価をしたのか」という理由とともに評価し記入することです。さらに、もし△や×という評価を自分が下したとしたら、「どのように対処すれば○になるのか」も併せて考えることです。

チェックポイントに沿って評価し、上記の考慮すべき事項もまとめたところで、次のステップに進みましょう。

文献クリティークを実践に活かす

臨床で論文抄読会やジャーナルクラブを運営する場合、クリティークチェックポイントを各自がまとめたものを持ち寄り、まずは評価が分かれた箇所についてディスカッションしましょう。分かれた評価とその理由について意見を出し合い、自分にはなかった視点や知識を吸収することが重要です。例えば、「統計的手法は適切か」という項目に対し、自分は「○」と評価したが、別の人は「×」と評価しているかもしれません。その場合、自分にはない統計的手法に関する知識を別の人が持っていて、その知識に基づいて評価を下しているかも知れません。あるいは、類似の別の論文では、別の研究手法を用いていることを根拠に「×」と評価したかもしれません。このように、各セクションの評価についてまずはディスカッションすることで、自分の中にはない新たな視点や知識を獲得することができます。

各セクションの評価に関するディスカッションが一通り終わったら、論文に書かれている研究全体に対する評価について、ディスカッションしてみましょう。ここではおもに、「この研究結果を実践に活かすためには?」というテーマで話し合いましょう。自分たちの臨床場面において、どのようなケースで活用できそうでしょうか?あるいは活用が難しそうなケースや状況はどのような場面でしょうか?ここでも、おそらく参加者の意見が分かれるでしょう。その分かれた意見を、さらに深めてディスカッションしてみましょう。「Aさんは○○の場面で活用できそう、と言っていたけど、自分はそうは思わなかった」ということもあるでしょう。その理由はなぜでしょう?そのような意見を闊達に交わすことで、研究結果の臨床適用について、より具体的に想像することができます。

文献クリティークを研究に活かす

研究活動のいちプロセスとして論文抄読を行っている場合も、前半の各セクションの評価については同様です。ですが、研究全体のディスカッションについては少し異なります。ここでのテーマはおもに「この研究(テーマ)をさらに深めるためには?」「この研究論文を自身の研究に活かすためには?」という観点でディスカッションしてみましょう。さまざまな限界点や改善点が前半部分のディスカッションで出てきたと思います。その限界点や改善点を考慮して、つぎに同様のテーマで研究するには、どのように設計された研究が必要でしょうか?例えば、サンプルサイズが少ないという限界が挙がったのであれば、サンプルサイズを大きくして実施してみたらどうか、という意見や、測定方法に課題があれば、どのように測定すると良さそうか、といった意見を交わします。また、自分の研究にはどのような点が活かせるかという意見を交わすことも有意義です。対象者は異なるが分析方法が役に立ちそう、とか、類似のデザインを考えていたが、論文で記載されているような限界を考慮する必要性に気づけた、などです。

まとめ

文献を読み込む際は、漫然と読むのではなく、書かれている内容(研究)の適切性を評価しながら読むことが大切です。そのための指針の一例として、クリティークチェックリストを活用しましょう。弱点や限界点を指摘するだけでなく、各セクションで書かれている内容のどの部分が「あと一歩」な点なのか、そしてどのように対処すればより良くなるのかを考え整理しながら論文全体を理解しましょう。そして、論文の理解にとどまらず、論文精読している目的に合わせて、研究結果の活用方法についてもディスカッションしましょう。複数人で実施することが望ましいですが、もし難しければ、自分の中で自問自答しながらその活用方法を考えることで、有意義な文献クリティークとなるはずです。

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