report: 看護管理者のコンピテンシーに関する情報

看護管理学領域,特に看護管理の実践家において,非常に関心の高いテーマのひとつが看護管理者のコンピテンシーである.ここでは,日本,米国,英国で用いられている看護管理者のコンピテンシーモデルについて,情報提供も兼ねて代表的なものについて概観する.

注)本記事は,記事の著者本人の自己学習としてまとめたものであり,内容等はすべて著者個人が解釈している.また,著者自身は看護管理学の専門家ではあるものの,コンピテンシー研究の専門家ではない点にご留意されたい.

米国

米国では,American organization for nursing leadership(AONL)が,「AONL nurse leader core competencies」を公開している.のちに見ていく英国でも同様だが,「nursing leadership」であることから,nurse managerやnursing administrator,nursing directorといった,いわゆる職位のある看護管理者だけを対象としてない点が特徴的である.

AONL nurse leader core competencies(以下,AONL model)では,5つのコアとなるコンピテンシーを挙げている.

  1. Business skills and principles(ビジネススキルと原則)
  2. Communication and relationship building(コミュニケーションと関係構築)
  3. Knowledge of the health care environment(ヘルスケア環境の知識)
  4. Professionalism(プロフェッショナリズム)
  5. Leadership(リーダーシップ)

AONL modelでは,leadershipドメインを中心とし,それぞれのコアドメインが循環的に反応する,とされている.つまり,各ドメインは一方向的に関連するのではなく,双方向的に関連し合いながら総合的なコンピテンシーを育むことを目指していると言える.さらに,"leadership"ドメインとは別に,各ドメインの基盤となる"leader within"として,リーダー自身に内在化される態度・行動を規定している.

各ドメインの詳細は引用先の情報を参照されたいが,概略は以下の通りである.

注)leadershipとmanagementの両者は,重複が大きい概念ではあるが,本質的には異なる.一般的に,leadershipは職位によらずチームや組織をリードする際に必要な能力であり,managementはその業務の性質により,権限に依存する部分もあるため,概念としては弁別される.

Leadership:Leader within

  • Reflective practice(内省的実践)
  • Foundational thinking(基盤となる思考)
  • Career development(キャリア開発)
  • Personal and professional accountability(個人と専門職としての責任)

Professionalism

  • Profession accountability(専門職としての責任)
  • Advocacy(権利擁護)
  • Health equity and social determinates of health(健康の平等性と健康の社会決定要因)

Communication and relationship management

  • Effective communication(効果的コミュニケーション)
  • Influencing behaviors(影響力のある行動)
  • Relationship management(関係調整)

Knowledge of the health care environment

  • Nursing practice and application(看護実践と利活用)
  • Economics and policy(経済と政策)
  • Regulation(規制)
  • Evidence based practice(根拠に基づく実践)
  • Patient safety and quality(患者安全と質)

Business skills and principles

  • Financial management(財務マネジメント)
  • Strategic management(戦略マネジメント)
  • Human resource management(人的資源マネジメント)

Leadership

  • Systems and complex adaptive thinking(システムと複雑適応思考)
  • Change management(変革マネジメント)
  • Diversity, belonging and inclusion(多様性,帰属意識,包摂性)
  • Decision making(意思決定)
  • Transformation and innovation(変革と革新)

英国

英国では,NHSが「NHS Healthcare Leadership Model」として9次元のリーダシップ行動(The nine dimensions of leadership behavior)を公開している.米国と同様,leadeshipにフォーカスしている.加えてNHS modelでは,看護だけでなく対象を「healthcare leadership」としている点が特徴的である.

  1. Inspiring shared purpose(共通目的を鼓舞する)
  2. Leading with care(慎重に導く)
  3. Evaluating information(情報を評価する)
  4. Connecting our service(サービスをつなぐ)
  5. Sharing the vision(ビジョンを共有する)
  6. Engaging the team(チームを巻き込む)
  7. Holding to account(説明責任を果たす)
  8. Developing capability(能力を開発する)
  9. Influencing for results(結果のための影響力)

NHS modelでは,Inspiring shared purposeが中心に位置づけられており,他の8つのドメインはそれを取り囲むように配置されていることから,この「Inspiring shared purpose」ドメインが重要であることが窺える.

本文では,各ドメインについての「What is it?(定義,具体的行動)」と「Why is it important ?(ドメインの重要性)」が記載されており,さらに「Essential(本質)」「Proficient(熟達)」「Strong(強み)」「Exemplary(模範)」が示されている.NHS modelについても,詳細は引用先の情報を参照されたいが,ここでは概要を理解するため,What is it ?とWhy is it important ?を概観する.

Inspiring shared purpose

What is it ?

  • サービス精神を大切にする
  • サービスや患者ケアの改善方法について関心を持つ
  • NHSの原則と価値を反映した行動をとる

Why is it important ?

  • リーダーは,異なる仕事をしている多様な個人のために共通の目的を作り出し,共通の価値観を信じるように鼓舞することで,患者やその家族,地域社会に利益をもたらす

Leading with care

What is it ?

  • 健康及び社会的ケアにおけるリーダーのための重要な個人の資質を持つ
  • 特徴的な資質とチームのニーズを理解する
  • 全スタッフの仕事を効率的にするためのケアと安全な環境を提供する

Why is it important ?

  • リーダーは,チームに影響する潜在的感情を理解し,個人としてのチームメンバーをケアし,不安や動揺に対処することで,メンバーが患者や他のサービス利用者のケアにつながる素晴らしいサービスを提供することにエネルギーを集中することができる

Evaluating information

  • 妥当な情報を探索する
  • 新しいアイディアを統合し,改善や変化のための効果的な計画づくりのために情報を用いる
  • 異なるパースペクティブを尊重し,すべてのサービス利用者のニーズをとらえる根拠に基づく意思決定を行う

Why is it important ?

  • リーダーは,情報に対しオープンで注意深く,今起きていることを探索することで,改善のための草案を作成する方法についての説明方法を考えることができる

Connecting our service

What is it ?

  • どのように健康サービスや社会ケアサービスが合致しているか,どのように異なる人々,チーム,組織が相互に連携し作用しているかを理解する

Why is it important

  • リーダーは,できごとがどのように異なるチームの中で生じているのかを理解する;リーダーは異なる構造,目標,価値,文化の密接な関連を認識することで,つながりやリスクの共有,効果的な協働をすることができる

Sharing the vision

What is it ?

  • 到達可能でエキサイティングに感じられる方法で,将来の説得力があり信用できるビジョンを伝える

Why is it important ?

  • リーダーは,明確で一貫性のある誠実な方法で,皆が目指しているものについて生き生きとした魅力的なイメージを伝える

Engaging the team

What is it ?

  • 個人を巻き込み,個人の貢献やアイディアが評価され,サービスの成果や継続的な改善のために重要であることを示す

Why is it important ?

  • リーダーは,個人の貢献やアイディアを価値づけることによって,チームワークや誇りを促進させる;これにより,相互尊重,思いやりのあるケア,細部への気配りなど,望ましい行動がチームメンバー全員によって強化されるような,スタッフ・エンゲージメントの雰囲気が生まれる

Holding to account

What is it ?

  • 明確なパフォーマンス目標と質指標に合意する
  • 結果に対する責任を取るために個人とチームを支援する
  • バランスの取れたフィードバックを提供する

Why is it important ?

  • リーダーは,彼らの期待と人々のエネルギーを集中させ,職務上の要求の中で自己管理する自由を与え,ケアとサービス提供の水準を向上させるために,期待することや成功とはどのようなものかを明確にする

Developing capability

What is it ?

  • 人々が将来の挑戦に出会える資質を構築する
  • 個人と組織学習のための手段としてさまざまな経験を活用する
  • 個人開発のための役割モデルとして振る舞う

Why is it important ?

  • リーダーは,自他ともに将来のサービスニーズに応える技術や知識,経験を獲得し,彼ら自身の潜在能力を発展させ,成功と失敗の両方から学ぶために,学習と能力開発を支持/擁護する

Influencing for results

What is it ?

  • 他者に対するポジティブな影響を与える方法を決める
  • 他者の感情や心配を認識するための関係性を構築する
  • 対人関係や組織を理解し、説得し、協力関係を築く

Why is it important ?

  • リーダーは,異なる個人や集団,組織の心配事やニーズに敏感になり,影響力のあるネットワークを構築するためにこれを活用し,優先順位や資源配置、サービス提供方法についての合意に達する方法を計画する

米国と英国の比較

日本のモデルを確認する前に,いったんここで米国と英国のモデルを比較してみよう.

真っ先に特筆すべき点として、米国のAONL modelではcompetency、英国のNHS modelではbehaviorである点だろう.したがって、AONL modelのほうが一見抽象度が高く,NHS modelはbehavior(行動)であるため,具体的である.一方,同様の理由から,AONL modelのほうが「どのような能力を有するべきか?」という問いに対しては一目でわかりやすくまとめられている.プロフェッショナリズムやビジネススキル,ヘルスケア環境に関する知識など,NHS modelも詳細を読むと同様の記載があることが確認できるが,あくまでリーダーシップ行動を取るための前提という位置づけになっており、NHS modelのほうが必要な能力を捉えるにはやや分かりにくい.しかし,このわかりにくさは,リーダーシップに必要な能力(Competency)と実行・行動(behavior)の関係に起因すると思われる.つまり,ある1つの行動を起こすためには多数の能力が必要であり,1つの能力から多数の行動が起きるという関係性である.すべてが均一に該当するわけではないが,簡略化するとメッシュのような構造を成しているものと推察される.すなわち,両国とも「リーダーシップ」という概念を,能力の側から整理したのか,行動の側から整理したのかの違いに過ぎない,ともいえる.

ただし,両国間で各国のヘルスケアシステムの影響を受けていると思われる違いも見受けられる.例えばAONL modelでは,はっきりとひとつの能力として「ビジネススキルと原則」という,経営職の濃い能力がドメインとして独立しているが,NHS modelにはほとんどビジネスに関する記載がない.また,NHS modelの中心にはNHSの価値や信念に関するドメインが据えられており,AONL modelにはNHS modelのような施設を超えたミッションのような記載は見られない(地域社会に対する言及はあるが,文脈的にあくまでヘルスケアプロフェッショナルとしての観点から言及されたものである).この違いは両国のヘルスケアシステムの影響を受けているものであろう.

両国の共通点として,多様なメンバーの包摂,情報やデータに基づくマネジメント,多様なステークホルダーとの関係構築が挙げられるだろう.前述のように,能力と行動のメッシュ構造となっている両国のモデルにおいてもこれらのキーワードが共通しているということは,すなわち能力にも行動にも重要な要素であることを示していると考えられる.

日本

日本では,多くの団体・組織が「看護管理者のコンピテンシー」をそれぞれ定義・開発し公開している.複数のコンピテンシーモデルをすべて紹介することは避け,ここでは日本で広く普及している「東大版看護管理者のコンピテンシー」を概観する.

東大版コンピテンシーモデルは,5領域25のコンピテンシーから構成されている.このコンピテンシーモデルの特徴は,領域やコンピテンシーの構成は共通だが,職位によって2種類のコンピテンシーモデルが開発されている(看護師長・副看護部長・看護部長,副看護師長・主任).職位によって異なるモデルを設定しているのは,部署の管理責任者とその補佐とでは求められる役割行動が異なるためである,とされている.

  • 領域1:個人の特性(働き;管理者として備えるべき特性)
  • 領域2:思考力(働き;ビジョンを描く力)
  • 領域3:企画実行力(働き;企画し実行する力)
  • 領域4:影響力(働き;人を巻き込む力)
  • 領域5:チーム運営力(働き;チームをまとめ動かす力)

注)著作権に配慮し,本記事ではコンピテンシーモデルのカテゴリー及び働きのみを記載し,カテゴリー内のコンピテンシーは記載しない.詳細は書籍を参照されたい.

三国のコンピテンシーモデルの比較

米国と英国の比較は前項で行ったので,ここではその2カ国と日本との比較を意識して,日本のコンピテンシーモデルの特徴を見ていきたい.米英の比較でも触れたように,日本のモデルはコンピテンシーを定義しており,英国の行動(behavior)を定義したモデルよりは米国モデルに近いといえる.しかしながら,米国と日本の違いといえば,まず特筆すべき点はその視点であろう.日本のコンピテンシーモデルでは,比較的組織内を軸に,その組織をうまく運営するにあたっての能力に主眼が置かれており,他部門やステークホルダーとの関係構築等については自組織運営の視点から定義されているように解釈できる.一方米国のAONL modelでは,ビジネススキルやヘルスケア環境の知識といった,組織を取り巻く環境への対応を視野に入れた能力がカテゴリーとして構成されている点が特徴的である.英国のNHS modelでは,前述の通り行動に着眼したモデルであるため,日本モデルの各カテゴリーを遂行する際の行動を示しているような位置付けであるとも解釈できる.また,日本と米英との大きな違いは,モデルの対象である.日本のコンピテンシーモデルは,東大版以外も含め,多くは「看護管理者(nurse manager)」もしくは彼らに準ずる立場の看護師を主たる対象としているが,米英のモデルはleaderを対象としており,何らかの役職等を明確には規定していない.特にNHS modelでは,看護以外のリーダーも含めて解釈できるよう,healthcare leadership modelとしている.役割や役職,権限範囲等によってpracticalな行動は異なるものの,こうした多様な立場や専門性を包括するようなリーダーシップモデルがあることは,共通言語や共通認識をもつという点でも有益だろう.

三国とも,ヘルスケア環境や保健医療制度,看護師の役割規程等が異なるため,それぞれの地域(国)に必要とされる看護管理者の能力・行動が定義されているが,このように概観してみると類似点も多く,他国で開発されたモデルから得られることも多い.今後日本も,人口構造や医療ニーズの変化,医療提供体制の変革から,自組織運営だけでなく,幅広い視座を持った看護管理者が必要となることが予測される.そうした社会の動きに対応するためには,AONL modelで挙げられているようなビジネス的観点やヘルスケア環境の知識,NHS modelで前提としているような「地域の中に埋め込まれた自組織の役割」を自認したうえで他組織との連携をリード・マネジメントするような視点も重要になるかもしれない.

引用文献

1) AONL Nurse Leader Core Competencies. American Organization for Nursing Leadership. AONL Nurse Leader Core Competencies | AONL (2023.09.10 閲覧)

2) Healthcare Leadership Model. NHS Leadership Academy. Healthcare Leadership Model – Leadership Academy (2023.09.10 閲覧)

3) 武村雪絵編. (2014). 看護管理に活かすコンピテンシー 成果につながる「看護管理力」の開発. メヂカルフレンド社

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