看護研究の進め方:研究疑問の明確化

臨床疑問から研究疑問へ昇華させる

問いを立てる」で、自分の問いの種類がわかってきたら、いよいよ研究疑問を明確にしていきましょう。「問いを立てる」で解説している種類の中で、自分が明らかにしたいことがどのようなタイプの疑問なのかを整理し、誰の、何に(あるいは何と何に)着目するのかをより具体的に表現しましょう。

例えば、臨床疑問(Clinical question)が

  • 在宅療養者を介護する介護者の介護負担はどのようなものか?

という疑問だったとします(この場合「P=在宅療養者を介護する介護者、V=介護負担」ですので、記述タイプの研究になりそうです)。この表現でも何となく良い気がしますが、研究を進めていくうえではもっと具体化する必要があります。

  • 介護者→介護者とは誰の事?配偶者?子ども?子どもの配偶者?きょうだい?…
  • 負担→介護そのものの負担?生活上の負担?経済的な負担?身体的負担?心理的負担?そもそも負担とは?…
  • どのようなもの→状況のこと?多い、あるいは少なくなる要因のこと?本人の状態について?…

このように、自分が想定する対象や視点(変数)と、他者が想定することが一致しているとは限りません。クリアになっていない状況では、誰に、何を調査すべきかがはっきりせず、ぼんやりとした(≒質の高くない)研究になってしまいます。上記の例でも、介護者の背景によっては負担を感じるポイントや程度が異なるかもしれませんし、「負担は?」と聞かれた対象者はさまざまな点での負担を回答してしまい、得られたデータがいったい何を示しているのかがわからない結果になってしまいます。可能な限り、リサーチクエスチョンの表現だけで、多くの人が同じような対象、状況、場面などを想定できるくらい具体的な表現で表すことを意識しましょう。

研究疑問の言語化

研究疑問は、頭の中だけで考えるのではなく、できる限り言語化しながら検討しましょう。頭の中だけでは、なんとなくの表現が抜け出せず、明確化することが難しいです。実際、「その研究のリサーチクエスチョンは何ですか?」と尋ねたとき、明確に回答できる人はあまり多くはありません。はっきりと言語化できていないということは、未だ曖昧なままでクリアになっていないということです。以下は、明確な言語化を進めるために、ぜひやっておいた方が良いことです。

  1. まずは思いつくままに書き出してみる
  2. 書き出したリサーチクエスチョンに対し、疑問のタイプやFINERの視点からもう一度整理する
  3. 他の人の見てもらい、同じような対象、状況、変数などが想像できたかを確認する
  4. より良い表現がないか議論する

前述の通り、頭の中だけで考えるのでは、ぼんやりとした表現から抜け出すことは困難です。まずは恥ずかしがらず、どんな稚拙な表現でも良いので書き出してみましょう。手を動かし、文字として書くことによって思考の整理にもなりますし、少しばかり客観的にその表現を捉えることができます。そして書き出したリサーチクエスチョンに対し、FINERの視点で評価しましょう。FINERとは、リサーチクエスチョンが備えるべき特徴のようなものです。

Feasible実行可能性その研究計画は本当に実行できますか?実行できないリサーチクエスチョンは調査を行うことができないため、自分たちのリソースで本当に実行可能かを評価する
Interesting科学展興味深さその研究テーマは学術的に意義がありますか?研究という学術的行為を行うにあたり、臨床的に意義があったとしても、学術的意義が全くないリサーチクエスチョンは必要性が低い
New新規性その研究テーマは新しい知見をもたらしますか?すでに行われている研究を行う意義はあまりないため、自分たちの研究(リサーチクエスチョン)の新規性を自覚する
Ethical倫理性その研究テーマは倫理的に問題ありませんか?学術的・臨床的に意義があり、新規性のある研究であっても、研究実施や研究結果に著しい倫理的問題がある研究は実行してはならない
Relevant必要性、意義その研究テーマは臨床的/社会的に意義がありますか?看護学/医学研究は、社会課題や臨床課題を解決するために行う。したがって、臨床的/社会的に意義のない研究は実行する意義があまりない
FINER

これらのポイントについて評価し、その評価点も書き留めておくと良いでしょう。特に科学的興味深さ・新規性・必要性、意義は、例えばどの点が「新規的なのか」を言語化しておくと良いでしょう(研究計画書や論文で記載しなくてはならないため)。

FINERの視点で評価し、自分たちのリサーチクエスチョンがこれらのポイントを満たしていると判断したら、リサーチクエスチョンを他の人に見てもらいましょう。前セクションで説明したように、そのリサーチクエスチョンで多くの人が同じような対象、状況、変数を想定できなければ、まだまだ具体的に表現する余地があるということです。ここまでくると、自分たちのアイディアではもう修正することが困難になってくるかもしれません。そのときは、ぜひ他の人の頭脳をお借りしましょう。もっと良い表現はないか?その言葉に込めた内容を説明し、その状況に合う表現を一緒に考えてもらうと良いでしょう。この議論がまさに「ゼミナール」です。どのようにディスカッションしていけばよいか、実際のゼミ場面を参考に考えてみましょう。

「自宅療養している認知症の方を毎日介護するのは大変だと思う。臨床で経験した人の多くは、仕事をしながら帰宅したら介護して、休日も介護して…って感じで、自分の休息や趣味をする時間が無いって言っていた。だから『在宅療養者を介護する介護者』って表現にしているんだけど…」
「仕事をしている人を主に想定しているんだ。『毎日』っていうのは重要?例えば別居していて週末介護しに来る人もいると思うけど。」
「うーん、仕事に限定しているわけではないかな。専業主婦や専業主夫で、家事をやっている人を含めても良いと思ってる。『毎日』は結構かな。週末だけの人より負担感が違うと思うし」
「なるほど。『毎日』が重要なキーワードだとすると、『同居している主介護者』ってことかな。ちなみに、個人的には仕事をしている人の負担感と、家事をやりながらの人の負担感も違うと思うけどな。家事やっている人のほうが楽、というわけではないけど、食事の準備とかは家事の中で一緒にできることもあるけど、仕事をしている人は別だし、逆に仕事をしている人は、日中は介護していないけど、家事をやっている人はほぼ四六時中一緒にいるわけだし、負担感は違うように思うけどな」

いかがでしょうか。徐々に焦点化されていっているのがわかると思います。このように、ディスカッションを通じて、研究者は自分の想定している状況を言語化し、聞き手は研究者の頭の中を引き出すように問いかけ、明確化を助けてあげましょう。

特に、着目している現象(変数)はより具体的に考えることを意識しましょう。繰り返しになりますが、例えば「身体清潔ケアに対する看護師の認識」という表現についてみてみましょう。このままでは、「身体清潔ケア」という概念と「認識」という概念が曖昧で、調査したとしても得られるデータが示すことが解釈できません。質的にデータを集めたとしても、対象者がどの身体清潔ケアのことを聞いているのか、何のどういった認識について尋ねられているのかがわからず、表面的なデータしか収集できず、インタビューで深めることが難しくなってしまいます。量的にデータを集める際も同様で、”なんとなく”で得点化できたとしても、回答者が何のどのような点について得点化したのかの解釈ができない点数になってしまいます。これまで説明したことを意識しながら、より明確にリサーチクエスチョンを表現することを意識しましょう。ただし、この時点で研究方法(質的研究/量的研究など)はあまり意識しなくても良いです。リサーチクエスチョンが固まれば、必然的に研究の目的も明らかになり、目的がはっきりすればその目的を明らかにするための研究方法もおのずと決まってきます。

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