研究計画書の書き方

研究疑問(Research question)が定まったら、研究計画書を作成します。研究計画書は、研究を行う必要性を記載するとともに、研究を進めるうえでの手順(プロトコル)を記載します。したがって、背景、目的、方法を詳細に記載する必要があります。

※ここでは、一般的な研究計画書の書き方について解説します。倫理審査委員会に提出する研究計画書は、各施設の様式によって異なるため、必ずしもここで説明されることが当てはまらない可能性もあることを予めご了承ください。

背景の書き方

背景の構造

背景は、大きく4つのセクションで構成されています。

  1. 社会課題・臨床課題(テーマ)の提示
  2. 社会課題・臨床課題(テーマ)に関する既知の情報
  3. 社会課題・臨床課題(テーマ)に関する未知の情報
  4. 研究の目的と意義

背景では、実施する研究について、その研究の目的設定が妥当であることを示さなければなりません。「自分たちがわからないから研究する」「自分たちが疑問に感じたから研究する」という理由で研究を行うことは許されません。研究の背景を読んだ読者が、「確かにその社会課題・臨床課題に対して、書かれている目的の研究を行う必要性/必然性がある」と納得する必要があります

読者が納得しないということは、「社会課題・臨床課題がそもそも一般的な共通課題と認識されていない」、「目的設定の妥当性が不足している」、「設定された目的に対して研究する必要性が伝わっていない」といったことが考えられます。このまま研究を進めてしまうと、社会課題・臨床課題が無いにも関わらず研究をしてしまうことや、すでに行われている研究にも関わらず実施してしまう、といったことに繋がってしまいます。

納得感のある研究をするためには、上記の4つについて、根拠(先行研究や文献)を示したうえで論旨を展開する必要があります。

背景での各セクションの書き方

社会課題・臨床課題の提示

ここでは、着目しているテーマについて、「社会や臨床場面ではどのような課題があるのか」を説明します。最終的に、この課題を解決するために研究を行うのです。すなわち研究の意義につながる大切な冒頭部分になります。

ここで紹介する社会課題・臨床課題は、焦点化しすぎなくても大丈夫です。テーマについてあまり詳しくない人にもその課題が伝わるような、新聞の記事のような書き出しで十分です。根拠として付け加えるべき情報は、(テーマにもよりますが)疾患の疫学的情報や広く知られている事実に関する情報が良いでしょう。同様の内容が記載されている学術論文でももちろんOKです。ここで意識してほしいことは、「なぜ(自分たちが着目した)そのテーマについて研究をしなくてはならないのか」という問いに答えられるような論旨になっている必要がある、ということです。

例:看護職の離職をテーマにした研究の場合

今日では、高齢人口の増加と労働人口の減少、医療技術の進歩による医療ニーズの高まりをうけ、看護職が不足している1)。十分かつ質の高い看護ケアを提供するためには、看護職の離職を防止し、医療組織に留める必要がある。看護職の離職意図と関連する要因は、個人要因、組織/職場環境要因に大別される2)が、組織の人的資源管理の観点から、組織/職場環境要因が特に重要である。

この例では、まず看護職が不足しており、離職を防止する必要があるということと、離職につながる要因の中でも今回は組織/職場環境要因に着目しますよ、ということを説明しています。もう少し詳しく書くとすれば、離職に関するデータや、なぜ個人要因ではなく組織/環境要因に着目すべきなのかについての解説をもっと詳しく書くと良いでしょう。このように書き出すことで、「看護職の離職が社会にとって課題になっていて(十分かつ質の高い看護ケア提供を阻害している)、離職防止のためには組織/環境要因に関する研究をしなければならない」という課題を読者に理解してもらうことができます。ここがまさに研究のマイルストーンのひとつになるので、「自分たちの研究は離職防止のために行う研究なんだ」と研究者自身が再認識することにもなります。

社会課題・臨床課題(テーマ)に関する既知の情報

離職に関する研究をするということと、離職予防のために今回は組織/環境要因に着目するということを前セクションで説明したうえで、次のこのセクションでは、「離職と組織/環境要因」についてこれまでどのような研究が行われ、何がどこまでわかっているのかを説明します。自分たちがこれから行おうとしている研究は、「現時点研究されておらず、学術的にわかっていない」ことについて研究をする必要がある(わかっていることを改めて研究する意義は小さい)ので、まずこのセクションで「わかっていること」を解説します。

例:看護職の離職をテーマにした研究の場合

看護職の離職と関連する組織/環境要因についての研究は、これまで多数実施されている。○○らのレビュー論文では、~~が看護職の離職意図と関連することが報告されている。また、個別の実証研究では、~~などと看護職の離職意図との関連が報告されている。すなわち、○、×、△、□が看護職の離職防止にとって重要な組織/職場環境要因である。

ここでは、先行研究で「わかっていること」を紹介しますが、すべてを網羅的に記載する必要はありません。背景の論旨に必要な情報だけで十分です。例えば、看護職の離職と関連する要因は多数ありますが、今回は組織/職場環境要因に着目しているので、個人要因やその他の要因に関する先行研究でわかっていることを記載する必要はありません。また、この例のように、先行研究が膨大にある場合も、論旨に必要でかつ新しい情報のみで結構です。

そして重要なこととして、ただ先行研究でわかっていることを羅列するのではなく、必ず研究者の主張を加えることが重要です。ただ先行研究の情報を羅列しただけでは、読者はそれらの情報から何を読み解けば良いのかがわかりません。したがって、セクションの冒頭もしくは末尾に、研究者の主張、すなわちここでは「先行研究の情報から、今回のテーマに関して言えること」を必ず記載しましょう。例では、研究者は先行研究を紹介してそれらを根拠としてうえで、「○、×、△、□が離職防止にとって重要な組織/職場環境要因だ、ということがすでに分かっています」ということを言いたいのです。

社会課題・臨床課題(テーマ)に関する未知の情報

ここまでで、テーマに関する社会課題・臨床課題の説明と、これまで行われてきた研究と現時点で分かっていること(既知の情報)について読者に情報提供してきました。このあたりから、徐々に研究の目的に近づける文章構成が必要になってきます。このセクションでは、「わかっていないこと」について、研究の目的に合わせて提案します。最初のセクションで紹介した社会課題・臨床課題を解決するために、2番目のセクションで紹介したようにたくさんの研究がその課題の解決に貢献してきたけど、3番目のこのセクションではさらにその社会課題・臨床課題を解決するためにこんな情報(研究)が必要ではないだろうか、ということを説明します

例:看護職の離職をテーマにした研究の場合

○、×、△、□の他にも、看護職の離職防止に重要な組織/職場環境要因として、★が重要となる可能性がある。看護職以外の対人関係職を対象とした●●らの研究では、★が離職防止につながる重要な組織的要因であることが報告されている。★は、~~であり、看護職の離職防止にとっても重要な要因であると考えられるが、看護職を対象とした研究はこれまで実施されていない。

このセクション例の構成は、

一行目:研究者の主張と研究の目的への焦点化=看護職の離職防止に★という要因が重要かもしれない

二行目:一行目の根拠となる情報=看護職以外を対象とした先行研究の紹介

三行目:研究の目的への焦点化と未知の情報

という構成になっています。根拠となる情報の具体的な例や研究の目的への焦点化の表現は、研究の目的や論旨の流れ、何を主張したいかによって様々ですが、いずれにしてもこのセクションでは、「何がわかっていないのか」という情報と、「そのわかっていないことと研究の目的の繋がり(=研究の位置づけ)について」を読者にハッキリと理解してもらうことを意識して書きましょう。

研究の目的と意義

3番目のセクションで、グッと研究の目的に近づける終わり方をしているはずなので、このセクションでは研究の目的と意義を簡潔かつ明確に記載しましょう。特別な理由がない限り、研究の目的は「本研究の目的は、~を明らかにすることである」「本研究は、~を明らかにすることを目的とする」という表現で、誰の何を明らかにするのかを記載しましょう。

例:看護職の離職をテーマにした研究の場合

したがって本研究は、看護職が働く職場の★と離職意図との関連を明らかにすることを目的とする。本研究により、看護職の離職防止のための組織マネジメントに関する新たな知見を提供することが期待される。

繰り返しになりますが、研究の目的は簡潔かつ明確に、誰の何を明らかにするのかがわかるように記載しましょう。そして研究の意義は、背景冒頭のセクションで提示した社会課題・臨床課題とリンクするような表現で記載をします。

方法の書き方

方法は、背景よりも構造化されており、含めるべき内容がほとんど決まっています。基本的にその内容に沿って記載していけば良いのですが、方法の内容と背景の論旨が矛盾しないように注意する必要があります。

  • 方法で含めるべき内容
  • 研究デザイン
  • 対象施設・セッティングと対象者
  • 研究期間
  • データ収集・測定方法
  • 分析方法

研究デザイン

研究デザインは、横断研究、縦断研究(縦断研究の場合後ろ向き観察研究・前向き観察研究の別も)、介入研究(準実験デザイン、ランダム化比較試験などの介入割当方法も)、質的記述的研究、など、教科書的な研究デザインについて記載します。例では「★と離職意図との関連を明らかにする」とありますので、横断研究が想定されます。ここで横断研究以外の研究デザインが記載されていると、背景からの一貫性が突如として失われ、矛盾が生じてしまいます。必ず背景と矛盾しないことをチェックしましょう。

対象施設・セッティングと対象者

ここでは、対象施設・セッティングと対象者について、包含基準と除外基準を意識して記載しましょう。

例:看護職の離職をテーマにした研究の場合

関東圏にある400床以上の急性期病院の一般病棟に勤務するスタッフ看護職を対象とする。除外基準は、ICUや手術部など一般の入院病棟以外に勤務する看護職、入職・異動半年以内の看護職、産休・育休中の看護職、看護師長とする。

どういった施設・セッティングを含め、どういった施設・セッティングを含めないのか、誰を含め、誰を含めないのかを意識して記載します。この包含基準と除外基準を満たさない(どちらにも分類されない)対象施設や対象者はいないかを確認しましょう。対象者数を想定している場合は、根拠とともにその情報を加えると尚良いです。

調査期間

データを収集する調査期間を簡潔に記載します。

データ収集・測定方法

どのようにデータを収集し、どのように測定するのかを記載します。

例えば質的研究であれば、面接法や面接をする環境、データをどのように記録するのか、どのくらいの時間面接するのか、などの情報を記載します。

量的研究であれば、どのような変数を、どのような項目で測定するのか、尺度を使用する場合はどの尺度を用いるのか、尺度の使用許可は得ているのか、などについて記載します。

ここでもこれまで同様、背景と矛盾していないことを注意深くチェックしましょう。先の例では、「★」と「離職意図」との関連を調べることが目的でしたが、測定項目が「★」や「離職意図」を測定する項目になっていないと矛盾してしまいます(例えば「離職意図」ではなく「就業継続意図」を尋ねている、など)。また、次の「分析方法」とも矛盾していないことも合わせてチェックしましょう。

介入研究であれば、介入の割り付けや介入方法に関する情報も詳細に記載しましょう。

分析方法

想定している分析方法を記載します。

質的研究であれば、記録したデータをどのように分析するのか、分析の信憑性をどのように担保するのかなどについて記載します。

量的研究であれば、測定したデータをどのように加工して変数化するのか、どのような統計解析を行うのかなどについて記載します。

介入研究や縦断研究であれば、対象者の脱落をどのように処理するのか、どのような統計解析を行うのかなどについて記載します。

倫理的配慮

対象者保護のために、考え得る倫理的問題とその対処方法、負担の有無とその負担を最小限にするために行うこと、負担を強いて研究を行う必要性などについて記載します。

研究計画書の見直し

一通り書き終えたら、計画書全体を見直します。背景の書き出しから最後まで、矛盾点が無いか、記載内容が一貫しているか、不足している情報は無いか、逆に不要な情報は無いかをチェックします。

書きなれていない場合、これらを自分の目だけで発見するのは容易ではないため、他の人にも読んでもらい、筋が通っているかどうかを確認してもらうと良いでしょう。


補足:アカデミックライティングの基礎

論理的な文章を書くとき、段落内の構成を理解したうえで記載することを意識すると比較的書きやすいです。

まず大前提として、1つの段落で伝えたいことは1つに絞りましょう。1つの段落内に伝えたいこと(主張、情報)が複数あると、途端に理解しづらく伝わりにくい文章になるとともに、文章全体の一貫性が失われていきます。手を動かす前に、「今書こうとしているその段落で、自分は何を読者に伝えたいのだろうか?」を考えて整理してから書き始めましょう。

その段落で書きたい、伝えたいこと(主張、情報)が1つ決まったら、伝えたいこと(主張)その根拠(情報)段落のまとめもしくは次の段落への話題の前振りの3つのコンテンツを揃えます。前後の段落とのつながりや文章の流れによって多少変える必要がありますが、基本的に論理的で美しい段落構成は、

  • 主たる主張(TS):topic sentence
  • TSの根拠(SS):supportive sentence
  • まとめ、もしくは次段落へつながる文(CS):conclusive sentence

で構成します。特に重要なのは、主張(TS)です。いまひとつな背景で多いのは、先行研究(SS)ばかりが羅列されていて、それらの情報から著者が読者に何を伝えたいのかという主張(TS)が無い文章です。主張そのものが先行研究を引用しつつ提示することもたまにありますが、それはたまたま筆者の主張(TS)と先行研究で述べられていることが一致しているにすぎないのです。引用があろうとなかろうと、各段落には必ず筆者の主張(TS)が含まれるべきで、原則それは段落の冒頭に記載することが望ましいです。先行研究(SS)は、単に著者の主張を裏付けるものにすぎないので、そればかりが列挙されていないか、書き終えた文章を見直してみましょう。

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